習字

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小学生の頃に初めて習い事をずる休みしたときのことを覚えている、金曜日の夜の習字の日でその日は私が初めて寒いことが「痛い」と感じた日だった。自転車のハンドルを握る手がめちゃくちゃに痛かった。「具合が悪いから習字を休みたい」と言ったら母親は「寒いから行きたくないんでしょう。いいよ、休みなさい」と言った。学校に行くにしても朝に行きたくないからとぐだぐだ熱っぽい気がする、なんて言っても「馬鹿言ってないで早く用意していきなさい」とあしらわれていたのでまさか休んでいいなんて言われるなんて、しかもずる休みだとばれた上で、なんて拍子抜けした。それまで習い事も学校もずる休みしたことなんてなかったし、なんだか嬉しいより面白かったみたいな気持ちが大きく残っている。

 

私は寒いのが嫌いだったんだ。

 

 

 

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下手すればでっかい湖が凍るくらいの寒い冬を毎年やっちゃうみたいな土地に住んでもうすぐで一年経つ。春に来て、初めての冬。最高気温四度しかないのに「あったかいね」「もう春だね」と人は言う、春物の洋服を買う、雪が舞っても風が吹かなければあたたかい。庭ではなにかの花の芽が伸びているし、なんなら花も咲いている。植物は強い。私は寒い。まだ寒い。

 

私が来たときにいた猫がいなくなったのは秋で、まだ仕事がなくて家にいる時間が多いときもずっと猫がいたし、たまに短時間の仕事に出るようになっても玄関前に立つと家の中からうるさいくらいの鳴き声が聞こえたし、料理しようとすればお勝手まで着いてきて机の上に乗って、たまに構えと手を出して鳴いていた。ふてぶてしい顔で。

 

ずっと友達はごく少数だと言って来たけど、飲みたいと思えば人に困ったことはないしかなり恵まれていた環境にいたんだな。飲み友達くらい欲しいなとふと思ったりしたし飲みに行こうよと声をかけてくれる人もいるし、そうしたりしたけど、良い子たちなんだけど、ど、ど。

 

例えばロール式の燃えるゴミ袋を取ろうとしてゴミ袋がお勝手に縦横無尽に駆け回ったり、生姜を擦り下ろしていて中指の第一関節も一緒に擦り下ろして思った以上に血が出てきてしまったとき、本当に本当に理解の範疇を越えまくるくらいの寂しさが私のことを襲う。なんでか意味わからんくらいに襲われる。しばらく動けなくなる。それくらい謎にダメージを喰らう。ひとりでいるのなんて慣れているはずなのに、自分でなぜそこまで…と思う程だ。でも、考えてみてよ。素足で立ってるだけで足先の感覚がなくなる程に寒いお勝手で燃えるゴミ袋が散乱してみ。中指の第一関節ガッツリ擦り下ろしてみ。しかもひとりぼっちだ。今までは猫に話しかけていたのだ。寂しい。すごく寂しい。ツイッターにも書いたがファービを買うか、マジで悩んでいる。ファービー。君なら私の寂しさを癒してくれるんかい。ファービー…。

 

地元の人はわざわざ諏訪湖を眺めに行ったりしないらしい。そもそも車社会だから「目的なく散歩をする」はおろか用がある目的地まで歩くこともなかなかしない。歩いてる人って学生くらいしかいない。めめりもさんはすこし遠回りしても諏訪湖畔で酒を飲むのが好きだ。家でサンドイッチを作って湖畔まで歩いて行ってお昼を食べることもある。そんなことをしている人は周りを見てもいないんだけど。

諏訪湖を見たいと思ったら、寒いからやめよとかあんまり思わない。道路が凍ると、あまり出歩かないけど。でもだって、山に囲まれた中にあるでっかい湖なんて意味わからなくてすごく良いんだよね。

 

昔から寒いのが嫌いだったんだろうけどぜんぶ景色に救われていたんだろうな。暑いのも嫌いだったけど。寂しいとかどうのこうの思いながらも一年、何事もなく。平和に。生きて来れたな。冬、寒すぎて死ぬかと思ったけど。死ななかったし。冬の、夕方の。美しい空の色は、すごいよ、ミントグリーンになる空なんてある?

 

幼少期から、寒いのがすげー嫌いだった私でもひと冬越せたし。人間何処でも生きていけるんよな。猫がいないのは寂しいけど、死なないんやな。ファービーは欲しいけど。

 

また春が来るし、山菜をめちゃくちゃ食べてたら夏が来るんやろ。気づいたら、冬になっとるんやろな。私はこの町が好きだよ。

 

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