さよなら恋人くん
恋人と別れて一年が経っていた。
いつも、みなさんご存知恋人くんと書くのだけど、一年も経つのだから恋人のこと知らない人がきっとたくさんいるんだよな。そうだよな。
めめりもさんは恋人しゅきしゅきアカウントでした。
三年程、一緒に暮らしていたけど、それに終止符を打ったのが去年の十月末(だったと思う)。ふと気づくともう十一月も後半で、彼の誕生日にすら気づかなかった。
あっという間に過ぎていくなと思っていたのは別れた三ヶ月後くらいまで。あっという間に過ぎて行くわりに時間が止まっているようだった。
時間は過ぎないと思っていても過ぎていくものだね。不思議だね、当たり前なんだけどさ。
振り返ってみても私が彼にしてもらったことなんてほとんど無くて、なにも思い出せないに等しいんだけど、ああ好きだったなとだけ思う。本当にそれだけ。なにが好きだったのかと問われるとまったく答えが浮かばない。でも、好きってそんなもんなんだと思う。
まとめてしまうと最低な人だったんだけど、それでも好きだったんだよなあ、せっせと毎朝お弁当を作っていた私、健気すぎかよ。お弁当作るの楽しかったな。
自分から別れを切り出したし、別れたことに後悔とか、未練とかは一切無いんだけど、最後にうちを出て行く後ろ姿とかは多分一生忘れられなくて、心の中に残っている。一緒にいるだけで楽しかったこととか、それが全部だったこととか、ひとりの夜は泣きながらキャンバスに絵の具ぶちまけていたこととか。
私と離れたくないと言って泣いた彼が、今現在生きているかどうかもわからず(きっとあれは長生きするだろうな)、あれだけ近くにいた人の欠片も今は残っていないんだな。
あんなに最低な人だったけど、彼と離別したとき、私の中の激情は全部死んだ。もう二度と湧き上がることは無いだろう。
先日思い立って部屋を片付けたとき彼の仕事道具や鞄などが出てきたので全て捨てた。燃えるゴミ袋四袋ぶんのゴミを捨てた。見えないところにたくさん残っていたものを捨てた。もうなにも残っていないことを祈るよ。あんなこと何度もするもんじゃない。
あなたが居なくなって私は沖縄へ二度行って海に潜り、仙台へ行って仕事をし、東京へ四度行って友達と存分に遊んだ。ブログを作り、写真を撮り、好きなことをしている。美味しいものを食べ、美味しいものを呑み、楽しくやっている。
過ぎて行かないように感じた時間もどんどん過ぎて行く。いまこうしている間にも過ぎて行く。そうやって一年経った、ことにすら気づかないまでになった。
もう二度と会うことはないだろうし言葉を交わすこともない。笑い合ったことだけ、忘れないだけで、ただそれだけ。
一年経ったいま、もう一度言おう。さよなら恋人くん。
私の中の激情を殺した最低な人。